NEMOは「心惹かれるデザイン」というスローガンの基に革新的なアウトドアギアをデザインすることに誇りを持っています。私たちは皆さんのアウトドアでの体験をより良いものにするために、すでに存在するギアよりも優れた製品だけを市場に送り出しています。製品の開発、改良はこだわり抜いたデザインによることもあれば、より深く掘り下げて素材そのものの見直しにより実現することもあります。
テント生地の性能には非常に多くのことが求められます。風や雨、雪から身を守るシェルターの主要な構成要素でありながらパッキングや持ち運びに便利な柔軟性と軽さを兼ね備えていなければいけません。また、使用時には常に紫外線にさらされ、止むを得ず濡れたまま収納するような時には加水分解にも耐えなければいけません。このようにフィールドで安全かつ快適に過ごす上でテント生地の性能は非常に重要な要素になります。
NEMOは自らがつくる製品の性能だけではなく、つくることで環境に与える影響にも責任を持ち、皆さんがNEMOのギアを所有することに誇りを持ってもらえるような製品をお届けすることを約束します。
サステナビリティの向上を図る今の社会において、最高の製品を開発するうえで温室効果ガスの排出量を可能な限り削減することは、欠かすことのできない重要なポイントだと考えています。新しいテント専用生地であるオズモ™ファブリックを開発するうえで環境負荷の低減とパフォーマンスの最大化を妥協することなく同時に実現することは、大きな挑戦でした。
約2年間にわたり私たちは生地の構成する糸や織り方からコーティング、仕上げに至るまであらゆる要素を検証し、新しいテント素材オズモ™ファブリックを開発しました。この新素材の開発には工場だけではなくサプライヤーとも協力関係を結び、さまざまな性能や仕様を照らし合わせながらテストを繰り返し、少しずつ良い結果を得ながら、ゴールへと走り続けました。
生地はこうして作られる
テントの生地を作るには、まず糸を作ることから始まります。ポリマーの粒を混ぜて溶かし、口金から押し出し、冷却して引き延ばし、最後にスプールに巻き取ります。糸の化学的性質やサイズ、形状などの物理的特製は製造する際の温度、時間、張力によって変わってきます。
次にこの糸を織って生地にします。ここでは糸の重ね方によって織りの構造が決まります。織物の構造によって荷重がかかったときに縦横の糸がどのように相互作用するかが決まり、生地の引裂強度や伸縮性が変わってきます。
最後に織った後の生地にさまざまな加工を施します。テント生地の場合は、防水性を高めるPUコーティングや、撥水性を高めるDWR加工などが一般的です。また、この段階で染色などの仕上げを行うこともあります。
図1：オズモ™️ファブリックの完成写真 ナイロンとポリエステルの複合素材であるため、色の異なる糸が使用されています
オズモ™ファブリックは、低デニールのナイロン糸とポリエステル糸を組み合わせた独自の複合織物です（図1）。この複合化により、それぞれの糸が持つ利点が活かされます。ポリエステル糸は疎水性、低吸水性、低ウェットストレッチ性を、ナイロン糸は引張強度と耐引裂性を提供します。生地の裏面にはオズモ™ファブリックのために開発した独自のコーティングが施され、弾力性のある防水性を実現しています。
パフォーマンス
テントは持ち運び可能なシェルターであり、アウトドアの過酷な環境から皆さんを守る数少ないものの一つです。テントの重要な機能は、皆さんをドライに保つことです。これは防水性、撥水性、濡れた時の伸縮性、耐加水分解性についての指標により管理されています。また、テント生地は風や雪の重みにさらされ、さらにテントの床が摩耗したり穴が開いたりする可能性があるため、強度も重要です。
ここからはテントに求められる重要な機能とこのオズモ™ファブリックの利点を紹介します。
撥水性
撥水性が高いテント生地は水を吸収することなく、外に排出します。濡れた生地は重くなり、伸びたりたるんだりします。テントにおける撥水性はテントとあなたをドライに保つために、テントの防水性や強度を維持するために重要な性能です。
撥水性能は生地を濡らし、攪拌した後に生地に残った水の量を測定し、その耐久性は生地を洗濯した後に、再び性能の測定をすることで判断しました。
洗濯と測定を繰り返した結果は図2のようになりました。オズモ™ファブリックの撥水性能の耐久性を業界の平均的なテント生地と比較するとその優位性が明らかになります（データは撥水性能の変化を分かりやすくするために初期性能を基準値１として記しています)。それは、一般的なテント生地の4倍以上も持続することがわかりました。
また、オズモ™ファブリックはAATCC22(アメリカ繊維試験協会による撥水力の試験)の結果が業界の平均性能よりも高いということも特筆すべき点です。この生地に使用されるコーティングや疎水性の糸、独自の織り構造によって通常のテント生地よりも撥水性が高く、かつその状態を長く持続することができるのです。
フライシートの張りを保つにはウェットストレッチ(フライが濡れた時の伸縮性)を最小限に抑えることが重要です。水分を含んで弛んだフライシートはインナーテントの生地に触れて、テント内を濡らしてしまう可能性があります。また、水が溜まるポケットができることで、水の抜けが悪くなる可能性もあります。さらに、風で生地がはためくと騒音が発生したり、特定の箇所がダメージを受けたりもします。
私たちは生地のウェットストレッチを評価するために、ほぼ飽和状態の湿度槽に生地を入れ、生地の伸び縮みの変化を測定する測定技術を開発しました。図3はオズモ™ファブリックのウェットストレッチの結果を既存のテント用生地と比較したものです。他のテント生地よりもウェットストレッチが3倍少ないことがわかります。このことはフィールドに設営したNEMOのテントはテンションが長時間適正に保たれ、より快適に安全に過ごすことができるということです。
ウェットストレッチが少ないのは、生地が濡れにくいことを示しています。これは、独自構造による特性の結果です。オズモ™ファブリックに使われているポリエステル糸はナイロン糸よりも吸水性が低く、吸水性が低い＝伸縮性が低いということです。
加水分解とは、水によって化合物が化学的に分解されることです。テント生地では、防水機能を担う内側のPUコーティングが水分に侵された状態であり、PUコーティングはベタつきや臭い、剥離などが発生し、最終的に防水性が損なわれます。
オズモ™ファブリックのコーティングに使用されるポリウレタンは、実験室で温水浴、水酸化ナトリウム溶液、温湿度の3種類の加水分解を誘発する環境下でテストされました。これらの方法を組み合わせることで現在のテント用生地のコーティングの中でトップクラスの耐加水分解性を持つ独自のコーティングを見つけ出すことができました（図4）。
その結果、オズモ™は、これまでテストしたどのテント生地よりも、より長い期間、防水性を維持できるようになったのです。
オズモ™️ファブリックは水に対して非常に優れた性能を発揮するだけでなく、ほとんどのテント生地よりも引き裂きに対する耐久性も高いという特徴があります。ダガーオズモ等のバックパッキング用テントに使用されるオズモ™️ファブリックは、1平方メートルあたりの重さが48gで、同じ重さのテントの平均に比べて引き裂き強度（引き裂き強度/面積質量）が69％増加しており、同カテゴリーのテントで使用される中でも最も強力な生地の1つと言えます。
ホーネットオズモ等のULテントに使用される軽量バージョンのオズモ™は市場で最も軽いテント生地の1つで、1平方メートルあたりの重さが29gしかありませんが、同等の重さのULテント用生地の平均に比べて、引き裂き強度が21％高くなっています。重さあたりの比較では、テントの生地として作るには最も強度が高い生地の1つです。
引き裂き強度の向上は、複合織りの中に含まれる高強度ナイロン糸から生まれます。糸の化学構造、糸のサイズ、織り構造のすべてが考慮され、可能な限り最も軽量で最も強力な生地を作るために最適化されています。
冒頭で記したようにこのオズモ™ファブリックを開発するうえで私たちは環境負荷の低減とパフォーマンスの最大化の両立を図ることをゴールとし結果、達成することに成功しました。
オズモ™ファブリックには再生繊維だけが使用されています。再生繊維を使用することで、プラスチックの汚染を防止し、化石燃料の使用料を抑え、温室効果ガスの排出を減らすことができます。また、生地の複合性から、糸の一部のみが染色されるため、染料の使用量が25％〜54％削減されます。減少した染料は、エネルギー消費、温室効果ガスの排出、廃棄化学物質を減らすことにつながります。
再生繊維だけが使用されるオズモ™ファブリックはその殆どがbluesign®認証生地で、bluesign®が独自に検証する環境影響に関する厳格な安全性と環境基準を満たしています。bluesign®が承認した化学製品や原材料を使用しており、人々や環境への影響を最小限に抑え、資源を可能な限り節約する方法で生産されています。bluesign®認証を取得するには深い理解と時間が必要なプロセスですが、NEMOは最終的に全てのオズモ™ファブリックがbluesign®の基準を満たすことを目指しています。
さらに人体や環境に有害な防炎剤(FR)やフッ素系撥水剤（PFAS）を全く使用していません。NEMOは、Outdoor Industry AssociationのChemicals Management Steering Committee及びFlame Retardant Cohortの一員として、他のアウトドアブランドと協力して、これらの化学物質をサプライチェーンから排除する取り組みを行っています。NEMOの製品ラインナップにFRやPFASを含まないオズモ™ファブリックが誕生したことはこれらの取り組みの最初の結果です。
サステナビリティに配慮した素材を調達する目的は製造時の環境に与える負荷を減らすためです。Higg Materials Sustainability Index（MSI）によるとオズモ™ファブリックはサステナビリティに関する特性を持たない類似の生地と比較して化学物質による環境負荷が50％以上削減され、1kgあたりの生産時に5kgのCO2が削減されることが分かっています。
この取り組みは簡単ではありませんが、とても重要です。気候変動、化学物質の影響、資源の枯渇は緊急の対策を要しています。オズモ™ファブリックはテント生地の持続可能性において大きな一歩を踏み出しています。その進歩は単独でも影響力があり、また将来におけるサステナビリティの発展のテンプレートとして機能していきます。
私たちは製品の開発により皆さんの冒険をより良いものにすると同時にその冒険を可能にする場所や人々を守ることを目指しています。オズモ™ファブリックを使うことによって私たちはより優れたテントを作ることができ、それが皆さんの良い体験に繋がっていくのです。
また、私たちは生地の製造に必要なエネルギーを軽減し、製造時に不要な化学物質の発生を排除することで製造工場の労働条件を改善し、地球への影響を軽減しています。
私たちが開発したオズモ™ファブリックはパフォーマンスとサステナビリティのどちらも犠牲にしない最高のテント用生地です。優れたパフォーマンスを発揮し、未来のサステナビリティのために正しい方向に進んでいるオズモ™を採用したテントを次の冒険に使ってみてください。
NEMOテントのラインナップはこちらからご覧いただけます。
