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梅雨だって、登山は楽しい。みずみずしさに満ちあふれた山へ
写真・文 西野淑子(アウトドアライター)
梅雨どきはハイカーにとってはゆううつな季節です。天気予報を見て、雨のマークを見つけてがっかりする。しかし、梅雨どきは、森にとっては「恵みの季節」でもあります。瑞々しく、静かに力を蓄えている山に出合う絶好のチャンス。雨の日、ガスの日にしか出合えない景色を見に行きませんか。
梅雨時の登山は緑が鮮やか。木々の間から白い花もちらほらと。
雨でも山に行きますか?
私は、雨やガスの日の山が嫌いではないのです。日帰りの低山ハイキングなら、前日の天気予報を確認して、「終日土砂降りの雨」の予報でない限り山に行きます。ぱらつく程度の小雨なら、樹林の中に入れば雨を避けることができますし、ちょっと強めの雨もレインウエアを上下しっかり着てしまえば、服が濡れて不快な思いをすることもありません。梅雨時の山は、空気が水をたっぷり含み、木々や草が非常に潤い、みずみずしいように感じます。見た目にも緑がいつもより濃く、鮮やかです。梅雨時の花木は白い花をつけているものが多いです。うっそうと茂る、色の濃い葉の中でよく目立つように、花粉を媒介してくれる虫や鳥に見つけてもらいやすい花の色になっているのだと聞いたことがあります。ホオノキの花、ウツギ、ヤマボウシ、オオカメノキ。いずれも梅雨時の森で真っ白い花がよく目立ちます。
流れてゆく雲、水しぶきをあげる滝。雨の日登山の悪天候がもたらすすばらしい景観
沢沿いの道を歩けば、渓谷は水かさが増し、勢いよく水が流れています。いつもは水量が少なくしょぼしょぼとした印象の滝も、迫力が増していたりします。渓谷沿いのコケなどもしっとり水を蓄えています。
厚い雲や霧に覆われて何も見えなくても、時間がたつにつれて雲が動き、霧が晴れて周りの山々が雲のすき間から見えたり隠れたりするのも美しいものです。真っ白い雲の間から見える黒々とした山、まるで水墨画のようだと思います。雲も霧も気まぐれで、見えていた山が一瞬にして見えなくなったり、逆に一気に視界が開けたり。ちょっとした運試しのような気分も味わえます。
しっとりとした樹林の風情、みずみずしい苔を楽しむ森歩き
雨の山歩きは、森の美しい低山や森林限界を超えない中級山岳がよいです。森林限界を超えると雨や風に吹きさらしになりますし、ガスで視界がきかない中の稜線歩きはルートファインディングに不安が大きいです。森を楽しむのにおすすめなのは、やはり北八ヶ岳。針葉樹と苔の森は、霧にけむっているときがみずみずしく、雨上がりに露をたたえてキラキラしているさまも美しいものです。また、奥多摩の御岳山ロックガーデンも、梅雨時に訪れたい場所のひとつ。渓谷沿いの登山道は、苔むした岩がひときわ色鮮やかでいきいきしています。
梅雨時の花といえばアジサイです。街なかでや公園で見るアジサイも美しいですが、山で見るアジサイも美しく、心に残ります。関東の山のアジサイの名所といえば、千葉・房総半島の麻綿原高原、そして奥多摩五日市(東京都)の南沢あじさい山が有名どころ。山の斜面を埋め尽くすアジサイの大群落は、見応えがあります。そして山のアジサイもまた、晴れて天気のよいときより、薄曇りだったり少し雨が降っていたり、霧にけむっているときのほうが幻想的で美しいと感じます。
雨の日登山を楽しむなら、濡れへの対策を万全に
雨の日の山歩きは「防御」が大事です。
防水透湿性にすぐれたレインウエアは必須アイテム。レインウエアの透湿性を生かすためにも、中に着るシャツやパンツは吸汗速乾性に優れた素材のものにしましょう。また、多少の雨のとき、歩きやすい登山道やアプローチの林道歩きなら、レインウエアを身につけるより傘をさすほうが快適です。レインウエアとともに折り畳みの傘も持参したいものです。
靴も防水透湿性のある登山靴がよいです。とくに雨の時期は濡れた岩や木の根、丸太の階段などが滑りやすくなっているので、グリップ力に優れたソールで、足首をホールドするミドルカットの登山靴がよいでしょう。こちらも、靴の透湿性を生かすために、ウールなど吸湿性にすぐれた素材の靴下を履くことをおすすめします。
雨でも気温は高く、歩くことで体温が上がりますので、背面の通気性に優れたザックが快適です。ザックカバーもお忘れなく。ザックにぴったりフィットするサイズのカバーが付属しているモデルがよいでしょう。ちなみに、大半のザックは「完全防水」ではないので、ザックカバーをしていても、水の浸入を完全に防ぐことはできません。絶対に濡らしたくない財布やスマホ、着替えのシャツなどはジッパー付きのビニール袋に入れてザックの奥底にしまう(雨蓋のポケットなどに不用意に入れない)など、防水を意識したパッキングをしましょう。
雨に濡れ、汗で身体が少し冷えたと感じることもある梅雨時の山歩き。雨が避けられそうな樹林の中やあずまやに入れたら、コンロでさっとお湯を沸かして熱い飲み物をいただきましょう。お昼どきなら、フリーズドライや粉末のスープを作って飲むのがいいですね。身体の中から温めるのが効果的です。
雨の日登山では無理をしない。天候や体調の判断はいつもより慎重に
雨の日の登山は、登山をするのに「条件がよい」わけではありません。濡れによる汗冷えは体調不良の原因になりますし、登山を続行できるかの天候判断なども必要です。よい装備を揃えただけでは十分でなく、自分でしっかり判断をすることが大切です。「中止」や「撤退」も大切な登山の技術のひとつです。
雨の日には、晴れの日には見えないものが見える。とはいえ、展望のよいところで雨やガスでなにも見えないのは残念なものです。そんなときは「景色に恵まれなかったのは、山の神様に『よい景色を見に、またおいで』と言われたということ。山の神様に好かれているということだ」と思うことにしています。
雨の日も、ガスの日も、山は美しい。
静けさ漂う、みずみずしい森をぜひ味わってほしいと思います。
ドイター フューチュラ24SL
背面の通気性が良いので蒸す時の背中の汗のかき方が大分違います。レインカバー内蔵なのも心強いです。雨対策の装備は必須なので日帰りハイキング程度でも容量は少し大きめが安心。
ローバー レネゲードGT MID
整備された登山道であっても悪天候時には、ぬかるみ滑りやすくなります。標高の高い山を歩くハードなタイプでなくても、足首周りまであるミッドカットモデルでしっかりとしたブロックパターンのあるソールがおすすめです。
西野 淑子(にしの としこ)
関東近郊を中心に、低山ハイキングから縦走、雪山登山までオールラウンドに山を楽しむフリーライター。日本山岳ガイド協会認定登山ガイド。著書に「東京近郊ゆる登山」(実業之日本社)、「ゆる山歩き」(東京新聞)など。