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世界観を広げてくれる登山ガイドの魅力を知れば山登りはもっと楽しくなる
フォトライター:かねだこうじ ガイド:髙木律子
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季節変わり目の悩み多き週末の問題
コロナ禍と共に訪れた2020年の夏。様子伺いで連絡を取り合う山仲間も皆、山へ向かう気持ちを抑えながら運動不足の毎日を過ごしているようだった。
思い出のない夏が秋へと移り変わる頃になると、やっぱり山にいきたいような気になり、山仲間との会話はもっぱら山行計画になっていた。
しかしそれでも悩む。
コロナ禍の影響がまだまだ残る今、「どこに行けばいいのか?」「どんな対策が必要なのか?」と疑問符ばかりになり、その答えを持っていない僕たちの話は想像の域を超えることはなく平行線。結局何も予定が立てられない週末が訪れ、過ぎ去って行った。
ガイド登山の意味を考えみた
そんな負のスパイラルに一筋の光を見出すアイデアが仲間から出た。「山の悩みは山のプロに聞くのが一番じゃない? ガイド登山やってみようよ」と。
正直、ガイド登山は冬山やクライミングなどのテクニカルな場面でしかお世話になったことがない。山道を歩くだけの登山にガイドが必要なのであろうかとさえ考えてしまう。
ところで世間一般的なガイド登山のイメージってどんなだろうか?
年配の登山者の贅沢プラン? 初心者の体験会? それとも山好きの両親へのプレゼント?
パッとした答えは見つからないが、海外の山岳フィールドではガイドを申し込むことが山行計画の必須事項だったりする。
整備されている道だとしても、土地勘が乏しい場所を想像と経験だけで計画する自己流的な登山は、事故遭遇の可能性と緊急時の初期対応において、ガイド登山とは比較にならないほど脆弱になるからだろう。
今年のコロナ禍中の週末登山は、まさに情報不足。なにをどうしたら良いのかがわからない中、ガイド登山の意味を改めて考え、体験してみることにした。
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計画してくださったプランとルートについて説明を受ける僕たち
北アルプスの白馬で登山なら僕たちの希望を叶えてくれる髙木律子ガイド
久々の山遊びに浮足立つ僕たちは、北アルプスの白馬に目的地を決め、日帰りプランでガイド登山を体験することに決めた。
「4~5時間程度の楽しい山歩きがしたい」というざっくりとした要望に応えてくださったのは、白馬村が地元の髙木律子ガイド。ガイド歴20年を超えるベテランガイドだ。
今回のプランは、白馬八方尾根スキー場のリフトを利用し、唐松岳へと向かう八方尾根コース。とても展望がよく、整備も行き届いた歩きやすい道に加え、途中には八方池というフォトジェニックなポイントもあり、その八方池を周回する約4時間のコースらしい。
髙木ガイドには、ガイドを申し込むついでにおすすめのホテルもご紹介いただいた。地元ガイドからの紹介ということで融通を利かせてくださったのか、通常メニューにはない特別なサンドウィッチのランチボックスをご用意いただけた。これは始まる前からサプライズだ。
髙木ガイドには登山前夜にホテルまで来ていただき、細やかなルートの説明とコロナ禍での登山方法などをわかりやすく解説していただけたことで、僕たちの不安も同時に解消されていった。
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問診表と検温で体調管理。髙木ガイドの指示に従いコロナ対策もばっちり
情報量と現場対応力で的確なサポート
翌朝、ホテルの窓ガラスを揺らす風音で目を覚ました。山の稜線をなぞるようして流れる雲の動きが早い。好天とは言い難い空模様を見ながら朝食をとっていると、集合時間よりも早くに髙木ガイドが到着した。
すでに早朝から各方面の関係者と連絡を取り合い、現地情報を収集し終えた髙木ガイド。白馬八方尾根スキー場のゴンドラが、午前中いっぱいは強風のために運行できないことが確実だということで、プラン変更の相談があった。
自分の周りの状況以外は何もわからない僕たちは、すべて髙木ガイドにお任せ。プラン変更の先は、白馬五竜スキー場から上がる小遠見山だ。
地元ガイドならではの人脈と情報量、そして細やかな気配りに大きな安心感を抱きながら、僕たちは白馬五竜スキー場へと車を走らせた。
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白馬五竜のリフト券売り場でゴンドラのチケットを購入し、いよいよ出発
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
人数制限のゴンドラ内でも感染予防対策はしっかり
小遠見山は雲の中
ゴンドラを下りた先にはお花畑が広がっていた。コマクサやチングルマなどの人気高山植物だけでなく、珍しいヒマラヤの青ケシ(メコノプシス・グランディス)やエーデルワイスの可憐な姿を見ることができる白馬五竜高山植物園だ。
花を愛でながら標高を上げると、間もなく本格的な登山道に丸太の階段が交じり、最初のチェックポイントとなる『地蔵の頭』に到着した。
小遠見山トレッキングのコースタイムは、通常90分。お花畑の周遊を合わせても約4時間もあれば十分に楽しめる360°のパノラマ大展望と美しいアルプスの稜線……、のはずだったが、あたりは真っ白。
濃霧に覆われて20m先がようやく見える程度で、楽しみにしていた景色を見ることは叶わなかった。そればかりか、霧で体が濡れはじめ、稜線の強風で体温が容赦なく奪われていく。
「この地蔵の頭から小遠見山へのトレッキングコースが今回の日帰りプランですが、視界がまったくありませんね。大パノラマ風景が魅力の小遠見山ですが、ここと同じく濃霧に包まれ、風さらに強くなるはずです。もちろんプラン通りに歩くこともできますが、標高を下げて気持ちいい場所でランチタイムを迎えるのはいかがですか?」と髙木ガイドからの次なるハッピー提案。僕たちはすでに、迷うことなく『髙木ガイドのおすすめプランに全力で頼る』と心に決めていた。
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いよいよ髙木ガイドによる日帰りガイド登山の始まりだ
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ただ山頂を目指すのではなく、途中のオモシロポイントも見てまわる
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町は晴れているように見えるが、『地蔵の頭』が見えた頃からさらに激しく霧は濃くなっていった
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想像はしていたが、想像を超える濃霧で展望も道も何も見えない
実は後日、髙木ガイドから晴天の時の写真を見せていただいたので、僕たちが目指した場所のご紹介だけしたい。
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本当は大展望の地蔵の頭
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本当は行く予定だった小遠見山の晴天時の風景
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本当に素晴らしい地蔵の頭から小遠見山の尾根道
標高を下げると晴天模様
「同じ道で帰るのはもったいない」という髙木ガイドを先頭に、高山植物園の周回コースに入った。
髙木ガイドの目測どおりに、標高を下げるにつれて霧は薄くなっていき、ゴンドラ乗り場に到着する頃には青空も見える爽やかな空模様が戻っていた。しかしさっきまで滞在していた山の上を振り返ると重たい雲がずっしりと乗っかっていた。
可憐な花をつけたいくつかの高山植物について教えていただきながら下山し、Cプランとなった「気持ちいい場所でランチ」に向けて場所を移動する。ホテルから用意していただいた特別なサンドウィッチのランチボックスが楽しみだ。
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ガイドの知識を聞きながら歩くトレッキングがこんなに楽しいとは思わなかった
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標高を下げるにつれて少しずつ霧も薄くなり、木道歩きも気持ちがいい
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こんなお茶目なクマ避けも発見
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ゴンドラ乗り場に戻ると空模様は一転して平和そのものになった
高山植物園で見つけたお花達
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チングルマ
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エゾリンドウ
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アサマフクロウ
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カライトソウ
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プリムラ・カピタータ
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コウメバチソウ
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ツリガネニンジン
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コオニユリ
ランチ中の会話も楽しい
髙木ガイドもお気に入りの場所だという町はずれの公園で遅めのランチタイムだ。公園と言っても遊具などがあるような区画整理された場所ではなく、山が望める芝生の林と言ったほうがイメージしやすい。
ホテル特製のサンドウィッチを食べながら今日の一日を振り返ってみると、強風で運行中止になった八方尾根からすぐに現地情報の収集を行い、転身可能な場所にプラン変更。さらに山中での天候判断で進行中のプランが変わって、そして今、暖かい陽気に包まれた芝生の上でおいしいサンドウィッチを頬張っている。
稜線歩きはできなかったが、目まぐるしく変わる天気の中でも辛い思いをすることもなく、結果的に楽しい時間を迎えられていることに、ガイドの存在が大きく寄与していると実感できた。
道迷いや危険個所通過の技術的なリスクヘッジだけがガイドの役割ではない。客のわがままに応えながら、さらにそれを上回るプランで豊かな時間を演出してくれるのだ。
この日、僕たちだけで山に入っていたら、こんなに気持ちの良いランチタイムにはならなかったはずだ。もしかしたら、濃霧の中でずぶ濡れになりながら強風に震えていた可能性も否定できない。ガイドがいるといないのでは、現場での判断力が圧倒的に違うのだ。
週末の限られた時間を豊かにしたいのであれば、ガイド登山はとても良い選択肢だと思えた。楽しい時間が飛躍的に増えるだけでなく、安全性も高くなり、さらにプロガイドの技術や考え方を学ぶ貴重な時間にもなるからだ。遊ぶ時間に限りがある人にこそおすすめしたい素晴らしいガイド登山体験であった。
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「この林の向こうに素敵な場所があります」と下山後のランチタイムに
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濃霧と強風の山上では想像もしていなかった平和で心地良い空間だ
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コロナ対策も含めた髙木ガイドのバックパックの中身
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白馬 山のホテル
〒399-9301 長野県北安曇郡白馬村北城3477
0261-72-8311
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ドイター フューチュラ30SL
髙木ガイドが使用していた背中の通気性が抜群に良い、日帰りトレッキングに適したモデル。標高の高いエリアの寒暖差対策に入れるジャケットを入れたり、山ご飯の装備を入れたりもできる容量です。
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ローバー バディアGT Ws
髙木ガイドの履いていたトレッキングブーツ。足運びのしやすいやや柔らかめで、滑りやすい場所でもしっかりとしたグリップ力を発揮するソールが特長。低山ハイクからゴンドラを使用した高所ハイキングまで幅広く活躍する。
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ラーケン トライタン・クラシック0.45ℓ
今回は、歩行中の水分補給用というよりも休憩時の温かい飲み物を作る時用に用意していました。歩行中は少しずつこまめな水分補給がお勧めなのでハイドレーションを使用し、調理用などの水は別途に持つようにしています。
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髙木律子(たかぎ りつこ)
20代後半から登山を始める。尾瀬でトレッキングガイドの仕事を経験し、お客さんがとても喜んでくれたことに自分自身も感激したことが、ガイド業へ進むことになったきっかけ。夏期は北アルプスや八ヶ岳、尾瀬を中心に登山やトレッキングのガイドを行なう。日本山岳ガイド協会認定登山ガイド、信州登山案内人、尾瀬認定ガイド。長野県白馬村在住。