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近くの山でも楽しめる
親子でスケッチハイキングのススメ
文 成瀬洋平(フリーライター、イラストレーター、日本山岳ガイド協会公認スポーツクライミングインストラクター)
小さなお子さんのいる家庭では、どのようにアウトドアを楽しむか悩むことも多いでしょう。本格的な登山は難しく、キャンプだけでは物足りない…
そんな時にオススメするのがスケッチハイキングです。コースタイムの短い山なら山歩きに慣れていない方でも無理なく楽しめ、スケッチ後にランチを組み合わせればきっと思い出深いアウトドアでの時間を過ごすことができるはず。ここでは、親子で楽しめるスケッチハイキングのコツをご紹介します。
スケッチハイキングに適した山は?
近くの山へスケッチハイキングに出かけました。同行してくれたのは近所でパン屋を営む姉家族とその友人家族。小学校5年生の女の子が1人と3年生の女の子が2人の総勢8人、とても賑やかなパーティーです。
さて、親子でスケッチハイキングに出かける場合どんな山を選べば良いのでしょう? 次の4点が大きな選択ポイントです。
①コースタイムが短い
②ルートが整備されて歩きやすい
③展望が良い
④花が咲いている
今回選んだのは、自宅から車で1時間ほどのところにある富士見台高原。ここは、日本百名山の一つ恵那山の北部に位置する標高1739mの小高い丘で、晴れていれば恵那山はもとより、南アルプス、中央アルプス、御嶽山、乗鞍岳、そして北アルプスまで眺めることができます。コースタイムは30分ほどで、頂上の近くにトイレもあります。
スケッチハイキングのルート選びで最も重要なのはコースタイムが短いこと。歩行時間が長いとゆっくりとスケッチする時間はありませんし、そもそも疲れて絵を描くどころではありません。なだらかなルートでコースタイム30分程度なら子どもたちも嫌にならないでしょう。普段山歩きに出かけない人でも余裕を持って歩けます。花が咲いていれば遠くの景色が見えなくてもモチーフに事欠きません。絵を描くのが目的なので頂上まで登る必要もありません。関東圏だと長野県の霧ヶ峰などがオススメです。
「透明水彩絵具」を使って遊ぶ
今回用意したのは「透明水彩絵具」。ぼくがいつも絵を描く時に使っているもので「専門家用透明水彩絵具」と呼ばれています。ちなみに小学校で使うものは「不透明水彩絵具」。同じ水彩絵具でも少し違います。たとえば、鉛筆で下絵を描いて着色する場合に透明水彩絵具は下絵の線がはっきり透けて見えるのに対し、不透明水彩絵具では線が見えにくくなります。透明水彩絵具は透明度が高い水彩絵具です。
水彩画の代表的な技法を二つ紹介。
1つは「ぼかし技法」。水だけを含ませた筆で画用紙をなぞり、水が乾く前に色を塗ります。水と絵具の間がぼんやりとぼかされて、水彩画特有の雰囲気が出ます。
2つ目は「にじみ技法」。2色以上の色を絵具が乾く前に塗ると、隣り合った絵具がお互いに浸透し合い、色がぼんやりとにじみます。透明水彩絵具を使うとこのような技法の効果が顕著に表れるため、水彩画の特徴のよく出た絵を描くことができるのです。
今回用意したお絵かきセットは、絵具と画用紙以外は百均で揃えました。画用紙は水彩画用の厚めのものを選んでください。
曇っていても大丈夫。山はモチーフの宝庫
いよいよハイキングスタート! 子どもたちは本格的な登山道を歩くのは初めてだそうでワクワク。小さな探検隊の気分です。
「涼しいね〜」
街は35度以上の炎天下なのに、上着を着なければ肌寒いほどの気温にびっくり。
「あ、イチゴがあった!」
登山道脇に赤い野苺が実をつけていました。山はモチーフの宝庫です。遠くの景色が見られなければ足元のものを見れば良いのです。
夏の時期、日陰のない場所でスケッチする時に注意したいのは熱中症です。スケッチに集中していると知らないうちにフラフラになってしまうこともあり、帽子は必携装備です。曇っていればその心配は少ないですが、景色も見たいので悩ましいところ。秋は日差しも穏やかになりスケッチハイキングに最適な季節です。
あっという間に頂上へ
稜線のなだらかな斜面を登ると小さな岩場があり、そこからひと登りで富士見台の頂上に到着しました。
「疲れた?」
すると「大丈夫!」と。子どもたちはまだまだ元気です。
頂上でスケッチセットを配り、好きな場所で絵を描くことにしました。子どもたちは途中の岩場が気に入ったようで、少し下って描くことにしました。
子どもたちは野外で絵を描くのは初めてでしたが、みんな絵を描くのが大好き。同じ場所で描いても、みんな全く違う絵を描くからおもしろいものです。何をどんなふうに描こうと絵は自由。道中で見つけた野苺を描く子、ガスの中に見え隠れする風景を描く子、そして山にいるのに海辺に佇む愛犬と自分を描く子もいたりして。周りの景色が見えないからこそ想像の翼を働かせて自由に描けるのかもしれません。大人たちも山並みや花、登山道をスケッチ。大人も子どもも同じ目線で楽しめるのがスケッチハイキングの魅力です。黙々と描いているとあっという間に2時間ほどが経過し、お昼の時間になりました。
お待ちかねのランチタイム
ランチはパン屋を営む姉夫婦が用意してくれました。今日のメニューはベーコンとナスと雛豆のトマトスープとクスクス。そしてフライパンで溶かしたカマンベールチーズをバケットにつける簡単チーズフォンデュ。クスクスは北アフリカ発祥の世界最小パスタで、同量のお湯を入れるだけで戻せます。茹で汁を捨てなくても良いのでアウトドアにはもってこいの食材です。スープの具材はジッパー付きビニール袋に入れて携行すれば鍋で煮るだけでOK。あっという間に素敵なランチが出来上がりました。山の上で食べるランチタイムは格別で、真剣に描いた後だからなおさら美味しく感じます。
スケッチハイキングのススメ
ぼくらが絵を描き、ランチを楽しんでいる3時間ほどの間に、多くの人々が頂上へ向かい、下山していきました。いつの間にか雲の切れ間から青空が顔を出しました。真っ白な雲と青い空の下に笹原の草原が広がっていました。
普段、登山をしていて同じ場所に3時間も留まることはあるでしょうか?
じっくりと風景を観察し、風の音に耳を澄ませ、光の強弱を感じることはあるでしょうか?
山で絵を描くと言うことは、自分がいる山の風景を肌身で感じること。
腰掛けた岩や眺めた風景は特別な場所になり、いつの間にか山に溶け込んでいく自分に出会えるでしょう。
「岩の上で絵を描くのが気持ちよかった!」
「絵を描きながらのんびりして、おいしいご飯を食べて。それだけなのにすごく贅沢な時間だね!」
上手な絵を描く必要なんてありません。スケッチを通して、山で豊かな時間を過ごすことができたら素晴らしいのだと思います。
皆さんもスケッチブックととっておきのランチを持って、スケッチハイキングに出かけてみませんか?
たとえ何度も行ったことのある場所でも、きっと思い出深い1日を過ごすことができるでしょう。
ドイター フューチュラ26
初夏から紅葉シーズンまで活躍する背面の通気性に優れたハイキング用バックパックは、背中の汗蒸れが大幅に軽減できるのがうれしいポイントです。子どもたちより先に親が暑さでバテルわけにはいかないですね。荷物の整理や出し入れに便利なフロントアクセスという機能も備えています。
ラーケン トライタンボトル
ハイキング中の水分補給や調理用の水を入れるための軽量ボトル。子どもとの山歩きは、ハイドレーションで歩きながらの水分補給よりもむしろ休憩として足を止め、一息入れながらゆっくりとしたペースを保つのもコツ。
トランギア ツンドラ3 ブラックバージョン
中型の鍋とフライパンがセットになったクッカーセット。同じトランギアブランドのケトル0.9ℓ(別売)を鍋の中に収納したり、これよりひとまわり小さいツンドラ3ミニ(別売)をシステマティックに収納したりすることができる。
プリムス ウルトラ・スパイダーストーブ
少し大きめの鍋で調理や湯を沸かす際は、燃料のガスカートリッジと火口のバーナー部が燃料ホースでつながっている分離型のこんろが安定感が高くておすすめです。
成瀬 洋平(なるせ ようへい)
岐阜県在住のライター・イラストレーター。自作したアトリエ小屋で制作をしながら各地で展覧会を開催。日本山岳ガイド協会認定スポーツクライミングインストラクターとして、笠置山クライミングエリアのほか各地の岩場で講習会を行う。
https://www.naruseyohei.com