Vol.1、Vol.2を通してTrangiaというブランドとその製品のルーツを改めて見つめなおし、ストームクッカーという同社の中核をなすプロダクトに多少なりとも興味をお持ちいただけただろうか。Trangiaが大切に守り続けているストームクッカーは、その見た目以上に汎用性に富み、今日のアウトドアシーンにおいてもなお実用的といえる性能を発揮し得る。断じて、ノスタルジーを感じるためだけに持ち出されるようなオールド・テックではない。
ただし、それもこれも全ては製品が “正しく” 使われてこそ生きる機能美だ。Vol.3では、Trangia本社スタッフ直伝のHow To、見落とされがちな使用上の注意点等を深掘りしてみたい。
Trangiaは、アルコールバーナーをそのシステムの中心的な存在として位置づけながらも、同時に固形燃料、ジェル燃料を使用できる軽量ストーブも展開している。これらのバーナーは、ストームクッカー・システムから切り離して単体でも使用が可能なように個別にも販売され、それらと併用するための様々なアクセサリーも数多く展開されている。
システムを構成する個別の機能を、それぞれが独立した状態でもモジュラー式に組み合わせて使用できるようにデザインすることで、Trangiaのバーナーはより多様なシチュエーションに対応することができ、結果としてより多くのユーザーのニーズに応え得る道具となっている。
アルコールバーナーは、Trangiaにとっては原点でもあり、またTrangiaユーザーの間でも最もポピュラーなストーブとして知られている。そのシンプルな構造のおかげで、どんな悪天候下でも変わることのない信頼性を発揮するアルコールバーナーは、その燃焼音の静けさにおいても人気を集めている。都会の喧騒を離れた大自然の中で穏やかなひとときを過ごすとき、アルコールバーナーは森の木々や川のせせらぎ、そして風の音を遮ることなく傍にあってくれる。
アルコールバーナーの燃料には、エチルアルコールないしメチルアルコールといったアルコール系のものを使用してほしい。アルコール系以外、とりわけガソリン等の化石系燃料の使用は厳禁だ。
蓋は2種類が付属している。開閉可能なカバー付の開口部を有する蓋は、アルコールバーナーを消化するときだけでなく、そのカバーをスライドさせて開口部の大きさを調整することで、火力を調整するのにも用いられる。
外気温が0℃を下回るような寒冷環境下では、別売のプリヒーターを活用してほしい。事前にアルコールバーナー本体に注入された燃料を温めておくことで、より燃焼効率を高め、短時間で効率的に十分な熱を得ることが可能になる。
よりシンプルで、軽く、コンパクトなシステムを好む方には、文字通り固形ないしジェル燃料を使用するソリッド/ジェルフューエルバーナーを薦めたい。点火した後の細かな火力調整が難しくなるので複雑な料理には向かないが、お湯を注ぐだけで調理することのできるフリーズドライ食品や、厳密な湯温管理を必要としないコーヒーを準備する程度のニーズには十二分に応える実力がある。その火力を、所詮は “非常時用” ストーブのものだと侮ってはいけない。
アルコールバーナーと組み合わせて使用できるゴトク等のアクセサリーは、原則として全てソリッド/ジェルフューエルバーナーでも使用することができるため、ニーズとスタイルに応じて活用してみてほしい。
もし、Trangiaのストームクッカーが、使用に複雑な手順と繊細な調整を要するものであったなら、ここまで多くのアウトドア愛好家たちから愛される製品とはならなかっただろう。時に過酷な環境下で使用されるアウトドア用品に、不必要に難解な使用手順を持ち込まないことは、Trangiaの開発チームにとっては至上命題の一つだ。
デジタル領域にUX (ユーザー・エクスペリエンス) という言葉が登場して久しいが、同様の概念はTrangiaにとっては決して特別なものではなく、当然のように創業当初から守り、考え抜かれてきた大原則の一つだった。
そうして少なからぬ努力の上に成立している美しきストームクッカーを、少しでも長く使っていただくためにも、下記に挙げるポイントは押さえておいてほしい。
- ストームクッカーはある程度の強風の中でも問題なく使用することができるが、その最大効率を求めるのであれば、適切に風の直撃を遮断できる場所を用意するのが望ましい。
- 下部の風防に設けられたドット上の空気取り入れ口は、常に風上に向けて設置してほしい。こうすることで、大量の酸素がストームクッカーの風防内に設置されるバーナーに向けて流れ込み、効率的な燃焼と排熱を実現することができる。
- ソースパンを使用する際にはゴトクを低い位置に、またフライパンを使用する際にはゴトクを高い位置にそれぞれ付け替える。バーナーに点火した後は、炎に近い場所で作業することになるため、これらの位置調整には付属のハンドルを使用すること。
- フライパンは、ソースパンの蓋としても使用できる。調理時間の短縮のためにも、上手に組み合わせて使ってみてほしい。
- 火力の調整や消火には、スライド式の調整可能な開口部をもった蓋を使用すること。ねじ込み式の蓋にはパッキンが内蔵されており、これは持ち運び時に内部に残った燃料の漏れを防ぐためのものだ。燃焼中のストーブにねじ込み式の蓋を載せてしまうと、パッキンを損傷してしまう。
- ストームクッカーに限った話ではないが、点火された状態のストーブからは目を離さないこと。万一、使用中に風向きが変わってしまうと、ストーブ内で吸排気がうまく流れず、最悪の場合には排熱がストーブ下部に滞留することでストームクッカー本体を溶かしてしまうこともあり得る。風向きと、空気取り入れ口の向きには常に意識を払い、細かく位置を調整してほしい。
- すべてのバーナーは、屋外使用専用に設計されている。燃焼には大量の酸素が必要となることから、テント内や車内などでは絶対に使用しないこと。最悪の場合には、一酸化炭素中毒による重大事故に帰結し得る。
- アルコールバーナーをストームクッカー本体と一緒に持ち運ぶ際には、アルコールバーナーを付属のプラスチックバッグに入れて保護し、ストームクッカー本体と長時間に渡り直接接触するのを防いでほしい。アルコールバーナーは真鍮製であり、イオン化傾向の異なる素材であるアルミ製のストームクッカーとの接触により腐食を生じさせる可能性がある。
- 点火された状態のストーブに対してはもちろん、消火してすぐの燃料の再充てんも厳禁だ。アルコール燃料の再充てんは、消火後、十分な時間を経てストーブ本体が熱をもっていないことを確認してから行ってほしい。
- ストーブ本体の燃料タンク内にアルコール燃料が残ったまま持ち運んではいけない。燃料は必ず使い切るか、消火後にストーブ本体が冷え切ったことを確認した後に燃料ボトルに戻して運搬すること。
- 燃料は、ストーブ本体の燃料タンクに対し、2/3を超えて充てんしてはいけない。
- 使用する燃料は、アルコール系の液体燃料に限る。ガソリン等の化石系燃料の使用は厳禁だ。
- 持ち運び時のセーフティロック機構を備え、細かな流量の調整が可能な専用のTrangia燃料ボトルの使用をおすすめする。
- ソースパンやフライパンを食品の保存容器として使用しないこと。
- 使い終わった後には汚れを放置せず、綺麗に洗い流してほしい。ソースパンやフライパンには食器用洗剤と柔らかなスポンジを使用し、しつこい汚れに対しては (ノンスティック加工済のものを除き) 金属たわしを使用する。
- 食洗機は使用しないこと。使用する機器、洗剤によっては、アルミの表面を傷つけかねない。
- 一般的なガスバーナーと異なり、アルコールバーナー等のストーブはソースパンやフライパンの外側に煤を付着させる。ポットの外側も忘れずにクリーニングを。頑固な汚れにはならないはずだ。
- ソースパンやフライパンの空焚きは、最悪の場合にはパン本体の損傷に繋がり得る。必ず何らかの内容物が入った状態でストーブの上に載せること。特にノンスティック加工の施された製品は熱に対して繊細なため要注意だ。
- バーナーの炎の大きさによっては、パンやケトルの底部を回り込んで外炎部が側面にまで及ぶことがある。これにケトルハンドル等のプラスチックパーツが触れてしまうと、場合によっては溶けてしまうことがある。ケトルハンドルやメスティンのハンドルカバーは、順次取り外し可能なタイプに変更しているので、必要に応じて取り外した上で使用してほしい。
- 調理中、アルミハンドルをソースパンやフライパンにセットしたままにしておくと、ハンドルはパンと同様に熱を帯びる。火傷の恐れもあるので、定期的にハンドルをパンから外して冷却する、ないし、どうしてもそれができない場合には火傷を防ぐためのレザーグローブ等の併用が望ましい。
- 気温の低い状況でアルコール燃料がうまく気化しない際には、点火前にバーナーおよび内部の燃料を予め温めるプリヒーティングを実施することで、効率的な燃焼を促すことができる。
- プリヒーターは、中央部のグラスウールに少量のアルコール燃料をしみこませた後に、アルコールバーナーの下に組み込んでストームクッカーにセットすることができる。
- プリヒーターの燃料に点火し、アルコールバーナー本体に熱が伝わる状態になったら、バーナー本体に点火してOKだ。プリヒーターは、適量の燃料が注がれている場合にはおよそ2分間燃焼する。その間は通常よりも炎が高くなることがあるため、とりわけストーブの状態に注意を払う必要がある。
ここまでのTipsに、これからストームクッカーを使ってみたいと考えている方、あるいは既にご愛用いただいているという方にとっても、一つでも新しい気づきが含まれていたなら幸いだ。
私たちTrangiaは常に明確な理念と意図をもって製品をデザインし、製造しているが、同時にユーザーの方の声にも真摯に耳を傾けている。Trangiaは今なお小さな会社だ。世界中から寄せられる全ての声にお応えすることはできないかもしれないが、皆さまから届けられる声は私たちの励みとなり、そしてまた開発チームへのフィードバックとして活かされていることを記しておきたい。
Trangiaは、今も昔も変わることなく、一人でも多くの方に、少しでも長くその製品を愛用いただけることを願っている。
最終回となるVol.4では、北欧の豊かな自然の中でアウトドア産業に携わるTrangiaが、どのようにして同社のビジネスが環境に与える影響を評価し、また最小化するためのアクションを選択しているか、そのビジョンとプロセスを追いかけてみたい。Trangiaは、これからの100年の同社のビジネスに対しても、既に明確なビジョンとアクションプランをもって動き始めている。