Trangiaは、豊かな自然を愛するアウトドア愛好家たちに冒険への可能性と安らぎのひとときを提供する同社のビジネスが、決して環境負荷の上に成り立っていてはいけないと考えている。今日におけるアウトドア関連企業の多くがそうであるように、Trangiaもまた持続可能なビジネスを続けることの重要性を強く認識し、できることは当たり前のように実行することを目標の一つとして掲げている。
全4回に渡りTrangia社CEO、マグナスからのメッセージを再構築しながらそのブランドのルーツとアイデンティティを追いかけてきた本連載だが、最終回となる本稿では、Trangiaが如何にしてそのビジネスが自然環境に与える負荷を低減し、これからの社会の中に同社が在り続ける意義を見出しているのかを追いかけてみたい。
Trangiaには、しばしば数十年も使用されたような古いストームクッカーが修理等のために送られてくる。家族の中で子や孫へと受け継がれてきた1970年製のストーブが、今もきちんと使用することができるのかと相談を受けることも珍しくない。そういった製品を目にすることができるのは、Trangiaにとってはこの上なく喜ばしいことであり、またビジネスの持続可能性に向けた過去のアプローチを振り返る良い機会となっている。
それもこれも、すべてはTrangiaが創業当初から妥協することのないものづくりを続けてきたからこそ、また、今なおそういった古いストーブに対して互換性を保ち、部品を交換する能力を維持しているからこそ目にすることができる光景だ。無論、損耗の程度にもよるが、傷んだ箇所を正しいパーツに交換するだけで、どれだけ使い込まれた製品であっても再びその本来の機能を取り戻すことができるのだ。
根本的にシンプルで頑丈な製品が、数十年に渡り大きく規格や形状を変更することなく製造し続けられているというのは、今日のように短いサイクルでプロダクトのメジャーアップデートが繰り返される消費社会においては極めて稀なことだ。Trangiaが創業当初からプロダクト・デザインに落とし込んできた理念とビジョンは、今日のような社会においてこそ光る価値をもっている。
Trangiaがずっとこだわり続けてきた、その品質の高さや堅牢さは、すべてが製品寿命の長さに直結している。“まだきちんと機能する” 製品であることが分かるからこそ、ユーザーの方もこぞって新製品に買い替えるのではなく手元にある愛着の湧いた品を使い続けようとするのだろう。
Trangiaのものづくりの理念には、その根底から “サステナブル” な考え方が息づいている。
Trangiaは近年、独立した第三者機関をファクトリーに招き、同社の企業活動が自然環境に及ぼす影響について定量的に分析を行っている。何が最も大きな影響を及ぼしているのか、また改善し得るポイントはないか、Trangiaが理想とする高い次元でのビジネスの持続可能性を実現するために、厳しい外部の目を招き入れた形だ。
Trangiaは既に一定の高いレベルで環境負荷を抑えることに成功している。一例として、同社のサプライチェーンはその97%がスウェーデンおよびヨーロッパ域内に存在しており、材料その他の輸送にともなうインパクトを非常に低いレベルに留めている。また、通常であれば精錬に大量の電力を必要とする純アルミニウム材料の約50%をリサイクル材から調達しており、これも劇的に環境負荷を低減するのに役立っている。
より細かなところに目を向けると、冬になれば極端な低温環境下での作業を余儀なくされるTrangiaのファクトリーは、石油燃料の代わりに倫理的な方法で調達された木材ペレットを暖房の燃料として活用している。また、ファクトリーを動かしている電力は全て再生可能エネルギーによってまかなわれている。
できることは、やって当然。Trangiaのファクトリーを見ていると、そんな声が聞こえてくるようにも感じられる。
ストームクッカーひとつを製造するのに、どのくらいのカーボン・フットプリント、すなわち二酸化炭素の排出が発生しているか想像できるだろうか。
答えは、14.2kg。そのうち約85%に相当する12kgほどは、製品に使用されるアルミニウムを精錬する段階のものだ。前述の通り、ここに環境負荷の低いリサイクル材料を用いることの重要性は、こういった数字からも再認識することができる。金属加工を必要とする以上、Trangiaがどれだけ企業努力を重ねたところで、ある程度は仕方のないことではあるが、製品ひとつあたりのカーボン・フットプリントとして、上記の数字は決して小さいものではない。
しかしながら、このカーボン・フットプリントを、おおよそ20年から30年にもおよぶストームクッカーの平均寿命に落とし込んで計算すると、その数字は十分に小さなものとして表現し得る。それは “ディスポーザブル” (使い捨て) な製品を何度も買い直し、廃棄を重ねていくよりは、はるかに倫理的かつ合理的な選択だ。
もうひとつ、良いニュースをお知らせしよう。Trangiaのストームクッカーは、その大部分が純粋なアルミニウムで構成されている。そのため、ストームクッカーとしての役割を終えた後には再び容易にアルミ材へとリサイクルし、他の製品へと姿を変えることが可能なのだ。単一の製品としてのプロダクト・ライフサイクルに留まらない、壮大な “マテリアル・ライフサイクル” の輪の中に、ストームクッカーは存在している。
Trangiaによる環境負荷の低減に対する取組みは、カーボン・フットプリントの低減のみに留まらない。ファクトリーで使用される化学物質についても厳格な管理と有害廃棄物の投棄制限を徹底している。
Trangiaが製造工程上必要としている主な化学的処理は、金属加工上、欠かすことのできない潤滑油を製品から取り除くための洗浄だ。この洗浄処理に使用された排水は、すべてファクトリー内にあるプラントでスウェーデンの法が定める厳しい基準に則って浄化されている。
さらにTrangiaは、この浄化プラントが確実に機能し、排水が安全に処理されていることを担保するために、工場排水を定期的に第三者研究機関に提供し、有害廃棄物が含まれていないことを確認している。自然の中に還すものこそ、何よりもクリーンでなければならない。
Trangiaが、その倫理観から自らに課すルールの数は、決して少なくない。
Trangiaが一部の製品に使用するノンスティック加工は、すべてEUが定めるREACH規制 (Registration, Evaluation, Authorization and Restriction of CHemicals) をクリアするPFOAフリーを達成している。PFOAは別名ペルフルオロオクタン酸とも呼ばれ、生分解が不可能な界面活性剤として自然環境下での残留や生体への蓄積が問題となったため、EU域内において関連物質と共にその使用が制限されている。
Trangiaが製造するのは、大原則としてユーザーが調理、そして食事に使用する道具だ。そこに、安全性を無視したマテリアルや製造プロセスは決して採用されない。すべては、次の100年もまた熱心で、健康なアウトドアを愛するユーザーと共にあるためだ。
まずは、ここまでの連載を通読いただいた皆さまに感謝の意を表したい。このスウェーデンの田舎町から、遠く離れた日本のファンの皆さまにメッセージを届けることができるのも、この時代ならではの喜びだ。私たちが小さな工場で作り上げた製品が、これからも広く日本のアウトドア愛好家の皆さまに愛され、そしてフィールドでの独創的な料理の舞台となることを願うと共に、私たちの生産能力が日本の皆さまのニーズを満たすに至らず、長らく品薄が続いてしまっていることについてもこの場を借りてお詫びを申し上げたい。
だが同時に、ここまでの連載で私たちTrangiaがどんな理念とビジョンの下に、どのようにしてブランドとビジネスを育てていくことを理想としているかをご理解いただいた皆さまであれば、早急に生産規模を拡大し数多くの商品をマーケットに流通させることが必ずしもTrangiaにとってはベストな選択肢ではないこともまた、ご理解いただけるかと思う。どうか気を長くもって、もう少しだけお待ちいただければ幸いだ。
Trangiaは、今後ともMade in Swedenの品質をもって “美しい実用品” を皆さまのお手元へとお届けすることを約束する。
トロングスヴィーケンより愛をこめて
マグナス・ライデル、
CEO at Trangia AB